■愛知県豊橋の帆前掛地織振興会様と、
60年ぶりに海を渡る「'ガラ紡'前掛け」復刻(2009年)
ガラ紡(がらぼう)という糸・テキスタイルの名前を聞いたことはありますか?
私がガラ紡の前掛けに出会ったのは、今から4~5年前。愛知県豊橋の前掛け工場で初めて拝見し、
その'肌触り''やさしさ'に心を奪われました^^;
たとえて言うと、母体に包まれていたような感じ?でしょうか。
ガラガラと音を立てて木綿の入った筒がまわり、下から上へ、「糸」を紡いでいくことから、
「ガラ紡」と呼ばれています。
その後、我々の会社のある東京・小金井の「繊維博物館」にも機械が残っていることを知り、
豊橋在住のガラ紡の第一人者、先生でもある浅井さんたち一向と訪問させていただきました。
(*ガラ紡についての簡単な説明です..
もともとはガラ紡績機の略で、こちらの写真のような糸を紡ぐ機械のことを言います。そのガラ紡績機で紡がれた「糸」を「ガラ紡(がらぼう)」と呼んでいます。
1873年、明治初期に開発され、愛知県の豊橋(三河地区)を中心に発達して来ました。当時、動力は主に'水車'でした。
浅井様の話では、終戦直後、豊橋で大活躍したのですが、その理由が、通常の紡績機はおもに'鉄製'。第2次大戦時は、兵器に利用するため、鉄を国に差し出さなければならず、そのため紡績機も豊橋から無くなっていたとのこと。
そこで、木製でつくった'ガラ紡績機'が大活躍したとのことです。)
そんな歴史の深い、まさに「日本の糸」と呼べる'ガラ紡'。
手紡ぎ(てつむぎ)に近い、やさしい糸なのです。
ただし、ひとつ、大きな問題が...
現代の機械紡績と比べると、格段に効率が落ちるのです。
戦後、高度成長期に求められたモノづくりは、「同じものを」「大量に」「早く」「安く」作る、という4原則。
そのため、歴史の流れの中でガラ紡も姿を消し、現在はほとんど見られなくなっています。
一方で、現在のモノが溢れ、人々の心の中に「今までの規格大量生産」に疑問を感じ、
より人間として大切なものをもう一度見つめよう、という流れのなかで、
効率は悪いですが、人として、本能的に'これはいい!'と感じていただけるこの生地に、わずかな望みはあります。
リサイクルの綿を使えること、環境にもやさしいことなどもあり、我々としてはぜひ再度脚光を浴びる日を、と思っております。
さてさて前置きがかなり長くなりましたが、今回、60年ぶりにアメリカへ渡った「ガラ紡 一番前掛け」。
きっかけは、2009年6月。
私、西村が、ニューヨークでのイベントを間近に控え、共にNYへ渡り、現地で前掛けトークショーを行う、
愛知県豊橋市の前掛け職人さん3名を訪ねたことに始まります。
NYで展示するための、50年~60年前に作られた、ガラ紡の歴史ある前掛けを数多く見せていただいたのですが、
その中で一際異彩を放つ前掛けが!
(にっこり笑顔の潮田の隣にある、ちらがその前掛け。現在は額に入れて大切に保管しております。)
良く見ると
「ICHIBAN COOK-SAN」
と書かれているではありませんか。
「この前掛けはなんですか?」
「そうそう、それが、60年前に、日本の商社を通じて、アメリカへ輸出されていた前掛けなんだよ!
今回、倉庫の整理をしていたら、2枚ほど出てきたんだ。
当時はかなりの数が輸出されてたよ。向こうのおみやげ屋さんなんかでも売られていたんだ。」
COOK-SUN(太陽) というどこかのメーカーの前掛けかと思った僕は、
「この文字はなんて書いてあるんですか?」
「それはもう、そのまま'コックさん(COOK-SAN)'って書いてあるんだよ。」
「おー、それは面白いですね!ぜひ、今回、この前掛けを60年ぶりにアメリカへ復元して持って行きましょうよ!」
~もとは、なんと、水車で動いていたガラ紡績機~
「どうせやるなら、徹底的に当時を再現しよう。
数十年前に織られた'ガラ紡'(という明治初期に開発された
日本の紡績機)で作られた生地を使って、本染め前掛けを復元しよう!」
ということで、「ガラ紡」の糸で織られた生地を使って、60年前に近い前掛けを復元することになりました。
早速、2009年7月~、今回のガラ紡'一番'前掛けプロジェクトがスタートです。
~頬ずりしたくなるほどやさしい、ガラ紡の生地~
まず、約40年前に織られたと思われる生地を探し出すことから
スタート。豊橋に数十枚だけ残っていた当時の「ガラ紡」生地を分けてもらえることになりました。
現在の機械紡績では出せない、独特の手紡ぎに近い糸の太さ。
この柔らかさと肌ざわりの良さは、最高です!東京・小金井のエニシングショールームに、
50枚だけ作った前掛けの残りがありますので、ご来店ください。
人間としての本能をくすぐられる、やさしい生地、体にもフィットする生地です。
同時に、我々のAnything事務所では、両面を別々の柄に染めて作れればと、
「表の一番コックさん」の柄を'過去の歴史'、裏側を'これからの未来'と位置づけ、デザイン製作に
入りました。
それから2か月、帆前掛振興会の杉江会長、芳賀さんに多大なるご協力をいただき、
50枚のガラ紡'一番前掛け'が完成しました。こちらが表面です。
こちらが裏面。デザイン担当・潮田ヒロアキのもと、出来あがった渾身のデザインが
「世界の仕事着'志(こころざし)'前掛け」。
世界に'日本の仕事着 前掛け'を発信する際の、最高の作品に仕上がりました!
最近ではほとんど見られなくなった裏表異なる柄の本染めもすばらしく仕上がりました。
最後に、今回のプロジェクトメンバーの皆様と、NYで記念撮影!
60年ぶりに、ガラ紡'一番前掛け'が海を渡りました!!!
(担当:西村)